「私たちは夜の冷気のなかに出かけた。
暗い山道を二十分ほど歩くと、うそのような場所ににぎやかなネオンのついたレストランがあった。それぞれが好きなものを注文して、デザートだけ、チェザレがこれにしようといった。ポロンポロンというおかしな名がついていて、注文をとりにきた店の主人にどんな味がするかたずねると、彼はこたえた。子供のときの味です。ポロンポロンは、ふんわりと粉砂糖をまぶした揚げ菓子で、口にいれるとぺしゃんとつぶれた。つぶれる感じが、ほんとうに子供のとき、子供のときのすべてに似ていた」
作者が、著名な、でもまったく面識のない評論家のお家に、友人とともにあそびに行ったときの話。
「つぶれる感じが、ほんとうに子供のとき、子供のときのすべてに似ていた」っていう部分に、衝撃を受けた。
著者の記憶力のよさはもとより、子供の頃に持った感覚を、大人になっても正確に思い出せる、正確に思い出せるだけの機能が今も子供の頃並みにはたらいている、ということが一番すごいと思った。
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