師走最初の一週間と「リリーのすべて」


今年も12月に入ってしまった。今週はちょっと、ごたごたしていた。一旦提出した原稿に不備があって戻ってきてしまい、それに対応したり、その返事を待ってもやもやもしたり。

とはいえ新しい月がやってきて、泣いても笑っても今年もあと1か月。

11月もあっというまに過ぎすぎて、記憶も曖昧なほどだけど、今月はもっと早く過ぎ去るんだろうな。もう気持ちは年末に向かっていて、いつ年賀状を買いに行こうかだとか、大掃除のスケジュールだとか、そんなことも考えています。


この間、久しぶりにプレゼントするための本を買いに行った。

その人はこのところ、自分のこと以外の用事や気がかりなどでとても忙しそうで、ほんとに時々文字通り「心をなくす」ことがありそうで、そんなとき味方になってくれるものといったらおいしいものかファンタジーだ! と思い、彼女が普段読んでいるジャンルから、本を選んでプレゼントすることにした。


わたしがお金もちだったり、素晴らしい自動車運転技術を持っていたりしたら、時間を買ってあげたりどこかに旅行やドライブに連れていって、気分転換をさせてあげられるんだけれど、そういうわけではないので、もっとも得意とする分野で役に立てたら、と思った。


停滞しているような日々でも、やり過ごすためのアイテムを知っていたら、その力を借りてなんとか前を向いていられる。別に明るくはなれなくても、普通にしていられる。

わたしも苦しくなると映画を観たり本を読む。それで、ファンタジーの世界から帰ってきたとき、心境が少し変わっていることがよくある。物事の捉え方がふっと変わったり、興奮が収まったりすることがある。

ファンタジーの世界から戻ってきたら、そこには変わらない現実がある。でもその現実を見る目が、ファンタジーを通過することによって変わったのだとしたら、なおいっそうファンタジーの力の凄さを感じる。

優秀なろ過装置のようなファンタジーを世の中に提供することができたら、作り手としては幸せだろうな。

何が濾され、何が残るかはその人次第。作り手にできることは、どんなものを流し込まれても壊れない、丈夫で良質な装置を作ることだろう。



一番最近観た映画。

「リリーのすべて」良かったです。

ジャケットはこのカットじゃないほうがよいのでは、という気がしてならないのだけれど(もっと美しいシーンはいっぱいあった)、でも内容は素晴らしかった。世界で初めて性転換手術を受けた男性を描いた、実話を基にした映画。


人間は、自分の本質、本当の気持ちに気づき、そこに近づけば近づくほど苦しむことも多くなるのかもしれない。女性として生きていきたい心に気づいてからの、「リリー」の葛藤や涙を思い返すとそんなふうにも思えた。

ということは、自分の核みたいなものは、ずっと気づかないでいられたらそれはそれで平穏なのかな? 

でも核を知ることによって、核を知ることによってしか、知ることのない自分もいる。

わたしたちの体の奥の奥から突き上げてきたり、絞り出されてきたような喜びや涙は、実はその核から出たもので、一度それを経験してしまうと、人間はやっぱり、それを追求してしまうものなのかもしれない。


映画の内容に戻ると、「リリー」の奥さんのキャラクターがとてもよかった。

奥さんは、男性として好きになった夫が、「リリー」という女性として生きていきたいという願いを持っていることを知り、最初はそれを受け入れることができずに苦しむ。

この奥さんは夫のことが本当に大好きで、「リリー」ではなく夫に戻って今まで通りに暮らして欲しいのだけれど、夫はもう「リリー」という人格を手放したがらない。そんな夫の気持ちも分かるけれど自分の気持ちもまだ消えたわけではない、という頃の奥さんの葛藤はとても痛々しいものだった。

でも最後には、奥さんは「リリー」も「夫」も両方まるごと愛することができるようになる。そのときの奥さんは、神々しいばかりに美しかった。リリーであろうが夫であろうが、その人間のことが好きだから、全部受け入れて寄り添うんだ、と決めた強い気持ちが伝わってきて心を打たれた。


奥さんも「リリー」もとことん傷ついたけれど、最後には自分自身を手に入れたのだと思う。その過程を、誠意を持って描いている良い映画でした。

0コメント

  • 1000 / 1000